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北米バレエ留学についていった話
京都のはずれにある小さなバレエ教室からいきなり4人の生徒がニューヨークとボストンにバレエ留学をすることになり、教室の先生の配偶者である甲斐性なし旦那が生徒達を引率してひと夏を見守ることになったのだが…
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Author:引率の者
妻(元バレリーナ)が拾ってくれなかったら、僕はとうの昔に大西洋で魚のエサになっていただろうな。いまは小さなバレエ教室の隅っこで日々たのしく暮らしています。もう大丈夫。



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ロミオとジュリエット
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本日から二日連続で宿替えをすることになっている。今日の宿泊先は「良い」ホテル。明日からは再び安宿になる。朝5時半に起床して、昨日のうちにパッキングしておいた荷物を担ぎ上げ、約2週間滞在した部屋を後にする。エアコンのない部屋だが、今朝はすずしい風が吹き込んでいて快適な寝床であった。

受付でスタッフのウクライナ人にチェックアウトと余り日数の返金手続きをたのむ。彼はなんと、ウクライナのアマチュアボクシングのオリンピックメンバーであるというのでサインをもらう。この夏はこうしてニューヨークで働きながら武者修行をしているのだ。

さながら旅芸人のように、すべての財産を担いだまま向かう先はリンカーンセンター。本日の最重要任務、「ロミオとジュリエット」の当日立ち見チケットの入手だ。

6時半にリンカーンセンター前につくと、すでに2人が待っていた。またおっさんばかりだ。先頭のおっさんは5時から待っているという。僕の到着とほぼ同じタイミングで婆さんがあらわれた。リンカーンセンターの入り口付近に自分の荷物を置き、そこから名前表のようなものを出す。先頭のおっさんから順に名前を聞き、表に記していく。そして僕らに、名前は控えたから9時くらいに戻ってくればいいと言うのだ。婆さんにABTの中の人かと聞くと、違うと言う。じゃあボランティアかと聞くと、そうだと言う。主催と無関係の一般のババアになんの権限があるのかわからなかったが、その婆さんを信用することにして、お礼をのべてリンカーンセンターを後にする。

近くのスターバックスでタヌキのサンドイッチを食べながら時間をつぶす。スターバックスでは今月から無料WiFiが始まったので、インターネットがつなぎ放題だ。ニュースをチェックしたり、メールを送ったりして過ごす。8時半になって少し心配になってリンカーンセンターの前へ戻った。もうすでに30人くらいが集まっていた。はたしてババアの順番管理システムは機能しているのか?

近づくと集まった人々はおとなしく順番に婆さんに名前を申告していた。ババアのシステムは生きている。ナイスババアだ。入り口前に集まる人々の数はどんどん膨らんで行き、当日チケット販売開始の午前10時を目前にしてゆうに300人を超えようかとなっていた。なにしろ本日はABTシーズンフィナーレ。あのオシポア、ヴィシニョーワそれぞれの「ロミオとジュリエット」だ。今ここに集まる人々のほとんどはその2公演を連続立ち見する筋金入りバレエファン達である。至高の芸術と対峙するために足を棒にすることをいとわない人々である。

僕とKちゃんの分2枚のチケットが無事とれた。Kちゃんのお迎えまでまだ1時間以上ある。リンカーンセンター前の石段で、入手したチケットの自慢をするために、わざわざ日本に電話をしたりして時間をつぶす。日本では、生徒の1人が大きな舞台での代役をもらったらしく、喜ばしいニュースであった。

Kちゃんを宿泊先までむかえに行く。昨日の食事はたいへん楽しかったとのこと。さらに今夜から2夜連続でそのお友達のおうちに泊めてもらうことにもなっていた。まだ子供とはいえ、海のむこうの知らない子供だ。そのような者をあたたかくお家に迎えてくれるご家庭があり、大変恐縮に思う。Kちゃんは本当に幸せ者だな。ここしばらくで、Kちゃんは身体の疲労以上に、かなりのストレスがたまっているのではないかと心配していたおりの助け舟だ。今日はバレエ公演終了後に車で迎えに来てくれるそうだ。

スターバックスで僕自身は本日二度目の食事をとり、開場の随分前にリンカーンセンターに戻ると、そこには待ちきれない人々がウロウロしていた。ウロウロのひとりのオババは「わたしゃチャイコフスキーよりプロコフィエフのほうが好きじゃ」と言い「オザワのデビューをタングルウッドで見た」と自慢していた。別のオババは僕の大荷物を見て「どこから来たんじゃ、日本からわざわざはるばる今日のために来たのか」という。面倒くさいので「そうだ」と答えておいた。よく見ると、周りはどこもかしこもババアだらけだった。敬老チケットでも配っているのか?

「あたしももう少し細けりゃあの舞台に立っていたんじゃて」とか言うので「おばあさんなら、まだ十分いけるよ」というと、ゲラゲラ笑われながらバシバシしばかれた。

開場となって、地下の荷物預かり所に行って「クレイジーな日本人がわざわざ今日のためにはるばるやって来ましたよ。」と言ったが、きっちり3ドルの預かり料をとられた。本日は大変込み合っているので立ち見席ですらチケットに立ち位置が指定されている。係の人に場所を教えてもらうと運悪く工事中の位置でひじ置きがついていなかった。前回も背の低い我々はここから直立不動で「白鳥の湖」を観ていたので構わなかったのだが、Kちゃんだけに係の人がひじ置きをとり付けてくれた。ラッキガールと誰かが言った。

僕にとって「ロミオとジュリエット」はバレエというよりは劇作品に近いモノだ。多少の脚本の矛盾や稚拙さがあってもバレエの様式美を優先し、やがて大団宴を迎えるという古典的な構成とは違い、本作品はシェークスピアの原作に忠実な構成であり、説明的な要素がどうしても強くなってしまう。バレエに対しては、視覚的なカタルシスをもとめる僕にとって、「ロミオとジュリエット」はやはり観ていてちょっとしんどいものだった。

プロコフィエフの音楽はもとより、群舞や各ソロパートの振付け、そして何より主役のパ・ド・ドゥはその難易度においても究極のバレエ作品であることに異論はない。しかし、感動の連鎖につながる大花火があがらないのだ。単純だし予定調和だが、効果的な古典作品の解決法は、僕のようなバレエ技術の詳細を解しない者には爽快感を与える。対して「ロミジュリ」はバレエとしての様式美よりも、ダンサーによる、それぞれの役の解釈をめぐる表現力を楽しむものかもしれない。しかし僕がバレエにおいて観たいのは、その並ならぬ技術によって創られる非現実だ。人よりもそれを超えたモノが見たい。しかしそれでも、そんなことを考えながらも、エラいモノを観てしまったことには違いない。その究極の「ロミジュリ」パ・ド・ドゥは、選ばれた者以外が挑戦することですらバレエに対する冒涜である。

荷物をとって外へ出ると、Kちゃんの同級生とそのご家族が待っていてくれた。Kちゃんをお願いすると、宿まで送ってくれるというので、お言葉にあまえた。今日の宿泊先となる「良い」ホテル前で降ろしてもらった。チェックインをすませて。夕食は少し奮発してタイ料理をひとりで食べた。久しぶりにお湯を張ったバスタブにもつかれた。

明日は11時までにチェックアウトをして、新しい宿に引っ越しをしなくてはならない。
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テーマ:バレエ - ジャンル:学問・文化・芸術



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